[副校長] RPG戦士の苦悩

「RPG戦士の苦悩」
まだ構想の段階だが、こんな物語を考えている。

僕はゲーマーである。名前なんてどうでも良い。どこで生まれたか、誰の子供であったのかはまるで見当がつかぬ。何でも物心ついた時分には既に、薄暗いじめじめした部屋でゲームばかりしていた事だけは記憶している。ぼくはこのゲーム世界(レインボーシックスシージ)の中で初めて本当の人間というものを見た。個人主義と欲望で汚れた脆弱な者達の集まるこの世において、彼は異色の存在だった。逞しい肉体と明晰な頭脳の持ち主であると同時に、リーダーとして人望が厚く様々な困難を切り抜けて行く力を持った人間なのだ。僕は彼を憧れと羨望の眼差しで見つめ目標にし続けた。彼のようになりたいと思い寝る間も惜しんで努力を積んだ。その甲斐があり、僕は若干17歳にして5000万人以上のプレーヤーのいるこの世界でも名の知れたリーダーにまで上り詰めた。今の僕は、かつて目標としていた彼と同レベルの人間になれたと自負している。

テロハントクラッシック、人質回収、人質防衛、爆弾解除…。僕のチームには敵を倒しながらミッションを遂行していく任務が次々と与えられる。敵の攻撃で仲間を失う事は日常茶飯事、辛い選択も時には必要だ。自分自身も重傷を負いながらも、仲間の援護に徹する事も。目的を遂行する使命感もチームを束ねる統率力も、人は実践と自省を通じてのみ会得出来るものだと、この世界で学ぶ事が出来た。僕たちの作戦は、主に深夜に繰り広げられる。夜通し続く作戦は、毎回精も根も尽き果てる。よって僕も仲間たちも、夜明けの頃には深い眠りに就くことになる。

僕は決まって同じ夢を見る。母親に起こされた僕は冴えない服を着て青空の中をスクーレという戦場に向け一人歩いている。トボトボと歩きながらも今日一日に起こるであろう出来事に対してのシュミレーションをしている所は、さすが歴戦の勇者だ。しかし、シュミレーションをすればする程、心の中は重い霧に包まれて行く。この服やアイテムでは戦場の敵どころか、強面の年下中学生にさえ太刀打ち出来ないと諦めの感情が体中から溢れて来るのだ。

スクーレという戦場は危険極まりない。誰が敵か味方か分からず、いつどこから攻撃されるか見当もつかない。なのでそこでの僕は、もっぱら息を殺している。いつもの戦闘服や武器さえあれば、どんな難題もクリアして行くことが出来ると思うと歯がゆくて仕方ない。勇者の名声を得ている僕がこの夢の世界で生きて行くために何か良い方法は無いのだろうか、戦闘服や武器以外のもの・・・明晰な頭脳、厚い人望、強いリーダーシップ、仲間たち、チームワーク・・・それを得るための努力と経験そして自省・・・。そうだ、本当に大切なものは、自分が汗水流しながら手にするものなのだ。それは、毎晩戦う戦場でもスクーレでも同じではないか! 一つの世界で築き上げた事が別の世界で出来ぬ訳がない。

 

「おい、山田! ちゃんと起きて授業聞け」

大王と呼ばれている世界史の先生の大声で僕は飛び起きた。

時は2019年秋。

そろそろ、スクーレ内でも実力を発揮させる時かも知れぬ。

 

 

霞ヶ関高等学校

副校長 伊坪 誠

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