[副校長] 私が小説家だったなら

私が小説家だったなら
小説や芝居好きな私である。たまには小説家気取りで物語を考えたりもする。今はまだ構想の段階だが、こんな物語を考えている。

何一つ取り柄のない少女がいた。勉強も苦手なら運動も苦手。自分の容姿にも自信がない。だから学校ではいつも、教室の隅で自らの影すら目立たない様にしていた。自分の何もかもが理想とかけ離れていて自分にはどうする事も出来ないと、15歳にして既に諦めにも近い悟りを胸に抱えていた。周りの大人達からも「いいかげんな子」という分かりやすい評価をいただいた。少女は周囲の評価どおりに振る舞って、レッテルを貼る大人達を安心させた。だからだろうか、高校受験の際も背伸びはしなかった。行きたい高校ではなく、行ける高校を選んだ。自分の住む街よりもだいぶ北にある、無名ともいえる高校に・・・。中学の卒業式当日になっても、少女の心に春風はまだ訪れなかった。

そんな少女が高校進学を機に変わり始めた。「高校に入学した少女が変わった」と言えば「高校生デビュー?」かと、見た目の変化やマイナスなイメージを思い描く人が多いことだろう。しかし少女の容姿は中学の時と何も変わってはいない。しゃれっ気無しの容姿に地味な眼鏡、硬くゴワゴワとした癖毛は高校でも健在である。高校に入学したての15歳の少女が変わったのは、学校を休まずに登校するというとてもシンプルなことだった。そうしようとしたきっかけは、新しい友達・部活動・信頼出来る先生との出逢い・恋愛感情の芽生え・・・。そのどれかかも知れないし、全部かもしれない。またはそれ以外の全く別の出来事がきっかけとなったのかも知れない。とにかく少女は変わり始めたのだ。

少女は高校の三年間を休まずに登校した。学校を休まないという事は苦手な勉強や運動もやらなくてはならない。性格の合わないクラスメートとも人間関係を築く必要もある。まさに骨の折れる面倒な毎日だ。しかし良いこともある。通学途中で目に入る、四季折々の長閑な風景。毎日の授業に参加すれば、分からなかった事が少しずつ分かるようになってくる。もっと知りたいと云う欲求が身体の奥から湧いてくる。定期考査は授業の内容から出題されるから、試験勉強にも効率が良い。各教科の先生の雑談が面白く、将来の参考にもなった。苦手だった級友とも「程よい距離感の取り方」が分かる様になった。片思いだが大好きな人を遠くから見つめる事も出来る。「毎日学校に行く」たったそれだけで気がつけば少女は、自身の毎日が徐々に未来に向かって明るく広がり始めているのを実感出来る様になっていた。

学校を休まない少女は大学を受験した。しかし第一志望の大学には、あと一歩及ばなかった。周囲の大人達の中には「はじめから無理だったのに・・・」と言って笑う者もいた。しかし少女は、決して恥じる事はしなかった。ある授業で、大好きな先生が「受験勉強は結果も大事だが、自ら目標を設定してそれに挑戦すること、努力を続ける事も大切。結果はどうあれ、<不合格だったら自分のせい、合格したら誰かのおかげ>と思えるなら、受験勉強は将来の自分に必ず生きてくる」と話していたことを覚えていたから。

・・・話はまだまだ続くのだが、今回はこの辺で。構想している範囲内で、少女がその後にどうなったかだけ簡単に紹介しよう。・・・

高校を卒業し大人になっていく過程で、少女は様々な経験をした。経験をすればする程たくさんの壁が待っていた。壁に悩み苦しまされる事はあっても、少女は壁から逃げる事はしなかった。上手く乗り越えられない時は自らを反省改善し、超えられた時は支えてくれた人たちへの感謝を忘れなかった。自分に無いものを羨まず、今持っているものを大切に磨いて行くことを続けた。自ら設定した目標に着実に取り組み、難しいとされる資格も独学で取得した。もちろん涙するような恋愛も・・・。そうやって高校を卒業してまもなく10年が過ぎようとしている彼女は、化粧でごまかさずとも内面から湧いてくる美しさで輝く大人の女性になっていた。(ゴワゴワの癖毛は今でも健在である。)

人が齢をとると云うことは、年齢を「重ねる」こと・人生を「重ねる」事に他ならない。「重ねるもの」が良いものになるか悪いものになるかは、その人自身の生きる姿勢で変わるのだ。それは化粧では取り繕えない人としての美しさにつながってゆく。

彼女の年齢は・・・高校を卒業して10年だから28歳。まもなく誕生日を迎える設定としよう。主人公に作者から誕生日メッセージを送らねば・・・。

 

 

28歳のお誕生日おめでとう。

これから先も歳を重ねる事・傷つくことを恐れないで自分の信じた人生を歩んでください。

そうやって10年20年と素敵な時を重ねながら人として美しく成長して行くあなたの物語を、いつの日かまた胸を張って書き綴る事が出来たのなら・・・作者として幸せです。

大人になった少女さまへ    あなたの作者より

 

大人へのスタートラインに立っている中学生・高校生の皆さん。

「未来のあなた」の作者は、誰…ですか?

 

2018.12.7 副校長 伊坪 誠

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