[副校長] 歩くということ
歩くということ
「歩くことは人生と似ている。どこが似ているのか、考えながら歩く一日にしよう」
参加した生徒・保護者にそう呼びかけた開会式後、本校恒例の「目指せ、日本橋!」は曇り空の10月第一日曜日、朝6時半、川越西口ウエスタ広場からスタートした。この行事は小江戸川越から東京の日本橋まで3班に分かれてタスキを繋ぐもの。ゴールまでの距離は約42km、所要時間は凡そ10時間を予定している。今年の参加者は生徒117名に保護者が6名、教職員を加えると総勢140名近い。中には全区間完歩を目指す強者もいる。
初めて参加する者の中には、歩く速さに面食らい不平不満を口にする者もいた。スタート直後に体調を崩したり、音を上げてリタイアする者も。そうかと思えば友と談笑しながら元気よく歩く者、一人黙々と歩みを進める者、一緒に参加したクラスメートや保護者に励まされながら己の限界に挑むものなど、歩き方は人それぞれ。しかし歩き方は違えど、額には一様に汗が滲んでいる。途中にある僅かな休憩時間では、誰もが言葉少なで疲労感が漂う。それでも休憩時間が終わると立ち上がり、再び歩み始める。そんな彼らの進む道端に目をやると、深まりゆく秋を彩る秋桜が揺れ、金木犀の香りが甘く漂っている。すれ違う人々の中には、赤、黒、黄色のTシャツ軍団に奇異の眼を向ける者もいたが、声援を送ってくれる人の姿も確かにあった。それら周囲の様子に気づいた生徒もいれば、行程の苦しさのあまりに気づかなかった生徒もいたことだろう。しかし、雲の切れ間から見える青空と太陽は全ての生徒を公平に見守っていた。
参加した三つの班が揃う場所は、皇居の和田倉門にある公園。そこから参加者全員で2キロ先の日本橋を目指す。ゴールが近づいて来た為か、参加者の足取りは軽い。それでも東京駅界隈の信号の多さは、一行を分断し、どうしても列が伸びてしまう。街の明かりが灯る頃、最後の曲がり角が見えてきた。ここを曲がれば麒麟の像が聳える日本橋が目の前だ。前方を歩いていた集団がそこで後続集団を待ってくれている。見える顔はどこか穏やかで頼もしい。ついに皆でゴール、そして笑顔の記念撮影。今年の全行程完歩者は9名。実行委員達の行事を通じて成長する姿が見えたことは、頼もしさを感じ誇らしかった。それにも増して嬉しかったのが、途中不平不満を口にしていた者が、ゴール後笑顔で「とても充実した、達成感ある一日だった」と言っていたことだった。口にはせずとも参加した一人ひとりがそう感じてくれたなら、共に歩いた保護者と先生達はとても幸せである。
さて、「歩くことは、人生と似ている」。皆さんは何処が似ていると感じましたか?
人生を、どこまでも歩いて行こう! 自分の脚で、自分の歩幅で
2025年10月9日
霞ヶ関高等学校
副校長 伊坪 誠