[副校長] 前を向いて歩こう

前を向いて歩こう
先日、永六輔さんの訃報を聞いた。軽快な口調で歯に衣着せず長きにわたって言葉を紡いでこられた方だった。永さんの言葉には強さがあった、優しさがあった、そして人情があった。永さんのラジオ番組を小学校時代から機会があれば聞いていた自分としては、寂しくてならない。

永さんのお書きになった『職人』の中の一節に、「日本の職人の凄さは、木や紙から宝を産み出すことにある」との話があった。言葉というかたちの無いものから、次々に宝を産み出していった永さんは、さしずめ言葉の職人だった。

教育において言葉は大切である。「近頃の先生は何を話すかは知っているんですが、それをどう話したらいいかということが分かっていません。」とも永さんは語っていた。伝達するという言葉本来の機能だけではなく、魂を吹き込み生きた言葉にして生徒に話し伝えるのが職人としての教師の腕の見せ所。同じ事柄でも、伝え方によって毒にも栄養にもなるのだ。だから、教師は言葉の力を磨き高めることに努めなければならない。しかしどんなに言葉を伝える術を学んでも、そこに魂が宿るか否かは話し手の人柄になってくる。これは、受け手とて同じこと。人から受けとった言葉を自己の中でどう育て消化吸収できるかも最後はやはり人柄なのだ。人柄あっての言葉の力、人柄あっての世間なのだと云うことを、いつの間にか永さんから学んでいたようだ。

姿かたちのない言葉を、姿かたちの見えないラジオからリスナーに送り続けた永六輔さん。あなたの言葉はもう聞けません。しかしあなたから受け取った言葉は、私たちが生涯持ち歩き育て生きていきます。

こんな関係を、生徒と教師の間で育める学校になれたなら。いや、なりたい。なるように、これからも前を向いて歩いて行こう。

 

2016.7.15  副校長  伊坪 誠

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