[副校長] 夏休み

夏休み
いよいよ夏休みである。全日制高校と比べ登校回数の少ない通信制高校の生徒でも、夏休みは格別な思いであろう。部活に旅行にアルバイト。自分の趣味の活動や将来の夢や目標に向けた準備のために、この長期休みを大いに利用して欲しい。そして楽しいことばかりではなく、苦しい事や辛い事も含めた自分の成長のプラスになる体験をいっぱいして欲しいと願っている。なぜなら、人は心も体も内に閉じこもっているだけでは(外の世界に目を向けなければ)成長しないからである。

皆さんはヘレン=ケラーさんを知っていると思う。目も耳も聞こえず当初はしゃべる事も出来なかったが、家庭教師のサリヴァン先生の教育のおかげで話せるようになった後、アメリカの名門ハーバード大学に進学。卒業後は社会事業家として活躍した女性である。サリヴァン先生と出会うまでの彼女は、社会とは断絶せざるを得ない状況であった。目も耳も不自由なのだから、自分の感情が全ての世界に生きていた訳だ。そんなヘレンを教育するためにサリバヴァン先生は、まず彼女を自分の世界から一般社会に引き出した。そこには強制や従属という行為が立ち塞がる。野生動物を飼い馴らすのと同じような手順が必要だった。

将来社会の一員として自立して生きるためには、社会の規範の中に自己を置く必要がある。全能感に満ちた自分中心の世界から、自分のルールなぞなんの力も持たない一般社会に晒される行為。そこには当然自己と社会の間に大なり小なりの摩擦が生じる。その摩擦こそが自我を形成するために必要なのだ。ヘレンがそうであったように、我々にも強制・従属の力が加わる。それに怯え己の内に閉じこもるのではなく、勇気を持ち果敢に挑み社会で生き抜く術を身につけよう。人は外の世界に晒されて初めて自分を知る。そこで目にするのは、自身の惨めな姿かも知れぬ。社会に対して牙を向く野獣の姿をした己かも知れぬ。どのような姿だろうが、そこにいる自分こそが社会の一員となるべくスタートラインに立つ自分なのだ。

様々な理由から本校を選んだ諸君だが、一度自分の世界から顔を出し外の世界を覗いては見たものの、また自分の世界に戻ろうとしてはいないだろうか?真夏の日差しに負けて家にこもっていては、海にも花火大会にも行けないのだ。世界には、素晴らしい風景がまだまだ沢山広がっている。その景色を探しに行く冒険を始める夏となれ。

 

2016.7.20  伊坪 誠

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