[副校長] 旅の車窓から   

『 旅の車窓から 』

修学旅行というものを何度引率した事だろう。アメリカ、韓国、オーストラリア、沖縄、神戸…。目的地はよく覚えているが、引率回数は思い出せない程に回を重ねて来た。しかし、今回の修学旅行が私にとってはおそらく教員生活最後の引率になるだろう。そう思うと、生徒達にとっては勿論のこと、自身にとっても良い旅行にしたい。そんなことを考えながら、始発電車で羽田空港へと向かった。今回の旅の行程は羽田から広島に飛び、宮島や平和記念資料館を巡る前半と、大阪散策やUSJで過ごし新幹線で東京に戻る後半からなる3泊4日。1クラス27名と私を含めた教員2名、計29名の参加である。

旅行中は晴天に恵まれ、冬とは思えない程の暖かで穏やかな日が続いた。飛行機や宮島を往復するフェリーから見た絶景。紅葉真っ盛りの大阪市内観光と、活気あふれる道頓堀界隈の散策。そしてUSJの街並みやアトラクション。旅行初日は交通渋滞で昼食会場にたどり着けなかったというアクシデントもあった。しかしその分、厳島神社の参道で買い食いが出来たりと、全てが良い思い出となった。中でも誇らしかったのが、参加した生徒たちのマナーの良さと見学地での姿勢。特に広島の平和記念資料館での彼らの態度は、秀逸だった。展示されている資料一つひとつに足を止め、真剣に見入る眼差し。館内数か所に設置されている世界中から訪れた見学者の寄せ書き帖を、1ページ1ページ丁寧に捲る指。資料館見学後のボランティアガイドさんによる平和記念公園ツアーには、全員が最後まで真剣に耳を傾け心を寄せていた。中には自分で折った千羽鶴を、「原爆の子の像」に手向ける者も。見学後「戦争のない平和な社会を築くため、自分に出来ることを、これからも考えていきたい」という決意を胸に刻んだ生徒たちの姿は、一回りも二回りも大きく見えた。人は学ぶ事により、己の為すべきことが分るようになり、大人になるのだ。そのことを教師である自分にとっても、まざまざと確認出来た貴重な瞬間であった。

旅行最終日、車窓の景色を眺めながら、旅行前の結団式で私が生徒達に話したことを思い返していた。「旅(歩くこと)と人生は似ている。良いこともある反面、計画通りにはならない事や思いがけないトラブルもある。しかしそれにイライラしたり、意気消沈するのではなく、プラスのものに変換していける自分や集団でありたい。それこそが旅や人生を豊かなものにする秘訣なのだ」と話した。新幹線の車内で寛ぐ生徒たちの顔からも、今回の旅行に満足した様子が伺える。

夕陽に染まり始めた富士山が見えてきた。私の最期の修学旅行もあと僅かの時間だ。自分自身にとっても、思い出深い良い旅となった。満足感に満たされたあまり、「旅がこのまま続けばいいのに…」と思えても来た。こんな気持ちになったのは、修学旅行の引率経験で初めての出来事である。

「旅と人生は似ている」。そう遠くない未来で、私の人生の旅も終わるだろう。その時も今の様に満たされた気持ちの中で、「このまま続けばいいのに…」と思いながら、人生の旅を終えたいものである。

 

追記

旅をサポートしていただいた旅行社やバス会社の方々(バス会社の方々には、私が車内に忘れた帽子を最終日に届けていただきました。 ※今回、忘れ物のトラブルは私だけ(;^_^A )、事前準備から活躍した旅行係の生徒。旅行中の班や部屋のリーダーと、彼らに惜しみない協力をしてくれた全ての生徒達。そして担任の先生と保護者の皆様に心から感謝を申し上げたい。  素敵な旅をありがとう

2025.12.11

霞ヶ関高等学校

副校長 伊坪 誠