[副校長] 草枕 令和項
『 草枕 令和項 』
どの道行っても不景気・不安定・不条理な里の山路を歩きながら、こう考えた。
とかく批判ばかりが目に付く季節になった。あら捜しに揚げ足取り。ご機嫌取りに借金取り。人の歩く道は、先をも見えぬ藪に覆い尽くされ、進めば進むほどに手足は傷だらけの泥だらけになって行く。
「こんな時代にぁ誰かの後を、歩いたほうが手は汚れずに傷つかず、いつかはどこかの旅籠に着いて、温かな飯にありつける。仮に道に迷ったら、先行く者に不平不満を言い連ね、誰か別の旅人が自分の先を歩くまで、木陰で寝てりゃいいんです」今時めずらしく赤シャツを着たインテリが得意げに、隣を歩く書生に耳打ちする。
視界のひらけた花畑ならともかく、雑草生い茂る棘の道では、赤シャツのような了見を考える輩が現われるのもいたし方在るまい。ただし、先行く者たちの中には、後ろの者のことなど考えもせず、己の安泰だけを願っている者が少なからず居ると言うことを用心せねばならぬ。そんな者の後をのん気に付いて行った日には、一人暗い藪の中で立ち往生することになるってもんだ。
このような世の旅だからこそ、先行く者を見定める目を持つことが必要だ。後ろから来る者のために自ら先に歩もうとする者は、自分の歩いた後を気にしながら振り返るものである。後ろの者達の声が届かなくなるまで一人先には進まぬものだ。そのような旅人を見付けたら、後に続く者たちは、大きな声で精一杯に応援し、元気に大地を踏み固め、その道をまた違う旅人が見誤らず歩けるよう、心掛けることが肝要だ。
諸君がどのような旅人になるかを、未来という山坂道の麓で楽しみに見守っている地蔵がポツリとつぶやいた。
「さぁ、旅は始まった。 道は あっちだ!!」
2020.4.8
霞ヶ関高等学校
副校長 伊坪 誠