[副校長] 図 書 室

図 書 室
校舎二階の東側から数えて二つめの教室が図書室兼自習室。図書室と言えば聞こえは良いですが、教室に大型のPC用ディスクと書棚を並べただけの普通教室と同じ広さの部屋です。昨年までは本の種類も本の見た目からも「古くて、かたい本」が書棚を埋め尽くしていました。

 

その図書室を、今年は生徒が利用しやすいものへとリニューアルすることになりました。

「古くて かたい本」の大部分は生徒や先生方に手伝ってもらい処分し、新たに高校生に読まれている小説や漫画・雑誌などを手に取ってもらいやすいように並べました。

また、生徒会にも協力してもらい、図書室利用時のルールについて生徒総会で決めてもらいました。その結果「部屋を汚さないなら、図書室内での飲食は可」となりました。以前は汚すからとの理由で図書室での飲食は禁止となっていましたので、各段に利用し易くなったといえます。その後の生徒たちの図書室利用状況はというと、自分たちで決めたルールをしっかりと守り、とてもマナーよく利用してくれました。

 

そんなある日、図書室の本が数冊行方不明になりました。誰かが黙って借りて返し忘れたか、故意に返さないようです。本来なら返さない事に怒る所ですが、不思議と怒りは沸いてきません。それは無くなった本の内容がメンタル(心理系)に関する本だったからです。本を持って行った生徒の気持ちを想像しただけで、胸が苦しくなりました。

 

小説や随筆から趣味の本や雑誌に至るまで、人が書物を手に取るときは何かの答えやヒントを求めている時や書物を通じて自身と向き合いたい時ではないでしょうか。心の中の穴を埋めるため・込み上げてきたものを処理するために子供は刺激を求めます。しかし思春期になると、そこに言葉を求めはじめます。言葉の宝庫である本の何処かにある答えやヒントを求める旅を始めるのです。それは同時に、大人になるための旅とも言えます。本を持って行った生徒は、苦しみながらもその旅を始めたのかも知れません。

 

本を勝手に持ち出した事はいけない事ですが、図書室の本が大人になろうとしている生徒と一緒に旅に出ていると思うと、なんだかわくわくします。いつかその本が成長した生徒とともに図書室に戻って来てくれる事を楽しみに待つとしましょう。そうだ、大人への旅の友となるような本を、図書室にもっと増やそう。

図書室も生徒も学校も、動きがあるところに未来への光が隠れているのですね。

そんなことを教わった、小さくて大きな事件でした。

皆さん、よい年をお迎え下さい。

 

2015.12.17  副校長  伊坪 誠

前の記事

[副校長] 物語

次の記事

[副校長] 新春に思う