[副校長] 物語

物 語
11月27日芸術鑑賞会で浜松町の四季劇場に行った。鑑賞したのは、劇団四季のミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」。家庭教師のマリアと7人の子供たちの心温まるお話と、子供たちの父親であるトラップ大佐とマリアとの恋を中心に物語が紡がれていく。

ストーリーは「キャッツ」などの作曲家A・ロイド=ウエバー氏がプロデューサーとなり劇団四季が手掛けただけあって、原作を知る者にとっても新鮮な感動を与えてくれた。家庭教師のマリアを演じた江畑晶慧さんやトラップ大佐役の深水彰彦氏はもちろんのこと、出演者の皆さんの歌、お芝居、ダンスはどれもが「素晴らしい」の一言に尽きた。それと舞台セットの出来栄えと場面を変える時の無駄の無い動き。この講演のために、どれ程多くの人々の知恵と技術と汗がつぎ込まれてきたのだろう。目の前で繰り広げられているストーリーを見ながらも、その裏にあった膨大なストーリーに想いを馳せてしまった。

このお芝居の舞台は、第二次世界大戦直前のオーストリア。大ゲルマン人国家建設をもくろむナチスドイツのヒトラーは、同じゲルマン人国家である隣国オーストリアの併合を、オーストリア人による国民投票によって実現しようとしていた。お芝居では併合に反対するトラップ一家を取り巻く人々が次々にドイツ併合賛成に傾いて行く様子が描かれていたが、観ていた者にどれだけその緊張感が伝わっていたのだろう。実際行われた住民投票の結果が97%の賛成であったという史実を知っていたのなら、その頃のトラップ一家の緊張感がよりリアルに感じられ、お芝居を数倍楽しめたことだろう。

人生は映画や芝居に例えられる。自分の人生の中では自分が主人公。自分の作る物語が素晴らしものになるか否かは、自分自身にかかっている。だからこそ人は時に悩みながらも、自らの力で前に進み明日からの物語をつくって行かねばならないのだ。ただ単に毎日舞台に立っているだけ・寝ているだけでも物語は進んでいく。しかし物語がより面白く深みを増すためには、演者として多くの知恵と技術を身に着け汗を流す事が必要だ。またその物語を一番近くで観ているのも自分自身。観客としての教養も同じ物語をより楽しませてくれる。更に自分の物語を陰で支えてくれている沢山の人たちに想いを巡らせられるかも重要となる。

お芝居の帰り道、近くにある貿易センタービルの展望台から夕闇に包まれてゆく東京を眺めた。おびただしい数の光と行き交うクルマや人波。その一つ一つに物語があり、一人ひとりに人生がある。各々が自身の物語を生きる事が、家庭を支え地球を支えていくのだ。

あなたの明日は、どんな物語になるのだろう。楽しみですね。

 

2015.11.28  副校長  伊坪 誠

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