[副校長] 別れ

別れ

最後に見た相手の表情や最後に交わしたお互いの言葉が忘れられない事がある。それを思い出す度に心が温かくなるものならば良いのだが、時には胸が痛くなるような辛い記憶であることもある。特に今生の別れの場合は、相手との関係を修復しようが無いので、何ともやりきれない思いとなる。

3年前に亡くなった母との別れもその一つであった。病気を患った母は、亡くなる3ヶ月程前から寝たきりになった。母が寝たきりになってからは、母のベッドの隣、床の上に布団を敷き、生活の補助や痛む身体を夜中にさすったりして過ごした。

介護は終わりが見えない。初めは献身的におこなっていた介護も、徐々に疲労が蓄積し始める。働きながらの介護は尚更辛い。煩わしく思えて来たのも正直な気持ちだ。きっと母はそんな息子の気持ちを察していたに違いない。

日増しに食事の量が減って衰えて行く母。しかし私の出勤前には、必ず「行ってらっしゃい。頑張って」と声をかけてくれた。

9月15日。その日は土曜日で本校の生徒会主催による球技大会の日だった。いつものように出勤前に母に挨拶に行くと、今日は朝から苦しかったのか、言葉は無く目だけで何かを伝えようとしていた。

私は多少心配ではあったが、いつものようにさらっとした挨拶をしてそのまま出勤。程なくして家族から母の容体がおかしいとの連絡を受け、直ぐに帰宅したのだが、母と会うことは叶わなかった。

あの朝、どうして母の容態をもっとしっかり確認しなかったんだろう、母は私に何を伝えたかったのか、今でも時々悔やみ考えてしまう。それと同時に、自分自身の母に対する数々の態度を詫びずにはいられない。戻れるものなら、あの日の朝に戻り母に泣きながら詫びたいと思っている。きっと、この気持ちは、これから一生背負って行くことであろう。

家族、友人、恋人・・・。毎日の何気ない小さな別れが、その人との最後の別れとなるときもある。そう思うと、日々のどんな小さな別れも疎かに出来ない。

 

今日は、母の命日。 帰り道、墓前に手を合わせに行こうと思っている。

 

 

2021.9.15

副校長 伊坪 誠