[副校長] ある面接練習での出来事

ある面接練習での出来事

先日、就職試験を控える3年生から面接練習をして欲しいと頼まれた。訳あって一年生の途中で私学の全日制高校から転入してきた生徒である。転入相談の時に面談したのが私で、彼の良い面を信じ受け入れたものの、転入したばかりの頃は無事に卒業出来るかと心配もさせられた。それでも、入学後何かの件で来校した彼の保護者には、「〇〇君は大丈夫ですよ」と言い切れた。

教師でありながらも、生徒とは積極的にコミュニケーションをとる事が苦手な性分なため、入学後彼に言葉をかける事は多く無かった。しかし、彼の成長を見守る事は決して忘れなかった。少しずつだが変化していく彼の表情や態度に、見守る側の不安はいつしか無くなって行った。そんな彼からの面接練習の依頼はとても嬉しく、当日が待ち遠しかった。

練習当日、一対一での面接練習が始まった。はきはきした受け答えは、それまでに積んだ練習量を物語る。とても素直に自分を表現する姿勢にも好感が持てた。様々な角度や深く掘り下げた質問に対しても丁寧且つ的確な回答が出来るのは、しっかりと自己と向き合っている所以だ。

今までの彼の成長を思い出しながら、淡々と進んで行く面接練習。聞こえてくる彼の声、そして態度。目の前にいる大きく成長した若者を見ているうちに、私の目から涙が零れてしまった。涙が零れるという表現よりも、泣いてしまったという方が正しい。面接練習の指導官をしていて泣いてしまったのは、これが初めて。彼の成長が嬉しかった涙であることは間違いない。ただ同時に、途中で本校を去って行った彼の同級生も、彼と同じように成長し卒業して欲しかったという無念の思いが複雑に絡み合った涙でもあった。

子供たちの成長速度は個人差がある。時には失敗したり、立ち止まることも。しかし、成長したいと思わぬ者は誰もいない。大切なのは子供たちの「成長したい」という気持ちを信じて待ってあげる事。適切な時に適切な助言や教育を施す事。そして、子供たちが安心できる自分の居場所の存在。それを提供出来る教育機関は本校のような通信制高校であり、家庭と協力しながらそれらを提供・実践することが通信制高校の使命である。久しぶりに彼と話せて、その思いを再確認させられた。面接練習を引き受けた側が、多くの事を学ばせてもらった時間だった。

「君の就職活動が順調に行くか否かは、誰も分からない。しかし、今後直面していく様々な壁を、君ならきっと乗り越え、成長を続けられる。そういう事の積み重ねで人生を形づくることが、人としての幸せというものなのかも知れないね。」

もう二人きりでゆっくりと話すことは無いかも知れぬ君に 伝えたい。

 

2021.10.15

副校長 伊坪 誠

前の記事

[副校長] 別れ