[副校長] 蒼い季節(とき) ①

『蒼い時①』

高2の夏、友人4人と伊豆の離島に一週間のキャンプに行った。準備は至って簡単。当時オープンしたばかりの川越のディスカウント・ストアで、安い4人用のテントを購入。食料は、米と夕飯用レトルトカレーのみ。おかずは海で釣る算段。往復の船代と僅かばかりのお金を持って、「イエェーイ!」と元気に出発。しかし現地で問題が多発した。

まず、行きの船中で友人一人の全財産が紛失。飯盒(はんごう)で米は炊けても、釣果はゼロ。頼みの綱のレトルトカレーも、2日目には底をついてしまった。4人用のテントは、荷物たちに占領された。仕方がないので、夜は2名交代で浜辺に寝る羽目になった。青い海と楽しそうな若者達の中に、ホームレスのような4人の姿があった。物事には綿密な計画と万全の準備が必要だと言うことを、生まれて初めて悟った夏だった。

そんなキャンプだったが、夜の砂浜で星を見上げながら友人と語った話は今でも心に刻まれている。進路の事、恋愛のこと、10年後・40年後の自分達はいったいどうなっているのだろうかという話。どれもとりとめの無い話だったが、この時を境に私達は自分の「進路」を意識し始めた。ただし実行は、まだ遥か遠い先の話だと感じてもいた。

9月になってキャンプに行った友人の一人が、受験勉強を始めた。休み時間も放課後も、そして秋の修学旅行でも、そいつは参考書を手から離さなかった。当時の私は「猛烈」とはこういう姿の事を言うのかと、初めて見る「猛烈」をただボーっと眺めていた。

ある時、その友人が私にこんな話をした。たしか、彼が病気で2日程勉強が出来なかった翌日の事だったと思う。彼曰く「最近、1日でも勉強しないで鏡を見ると、自分の顔がバカに見えるんだ」。その夜、私は部屋の鏡をのぞいてみた。なんとも言えぬバカ顔が、鏡の中で薄ら笑いを浮かべていた…。

誰にも公平にある高校時代。この時間をどう使い未来につなげて行くかは、君自身の問題だ。ただし、そこには将来を左右する、大切なものがゴロゴロしている。それを見過ごすことなく、どれだけ自分の中に吸収し己を変えていくのかが、10年後・20年後の自分に確実に影響してくる事を忘れてはならない。

コロナウイルスで大変な時期ではあるが、今度君達と再会した時、良い意味で顔が変わっていて欲しい。

実り多き春になる事を、心より祈っている。

 

2020.3.27(過去の自著を一部改編)

霞ヶ関高等学校

副校長 伊坪 誠

前の記事

[副校長] 愛するということ